
夕焼けを見ると、
「美しいね」
と言って日下部さんは泣く。
僕は
それを見るといつも笑ってしまう。
「日下部さん」押見修造
アクションコミックス 株式会社双葉社
押見修造の、このほんの20ページの短編は、僕のもとに17歳の少女、日下部さんが現れるだけの物語だ。出会いと別れですらなく、たぶん恋でもない。
日下部さんは最初から壊れていて、僕はふらりと現れる猫にごはんをあげるように日下部さんとセックスをする。来なくなると肩の荷が降りたようでいるのに、気配だけが残っていると、狼狽して探し回る。どこで何をしているのか、日下部さんは傷つき、飢えまたは満たされて、ときには痩せ細りやつれて現れ、僕はただ受け入れる。
それは長くだらだらと退屈に続く日常のなかにもたらされる、美しくて汚らしい瑕疵だ。いずれ思い出すこともなく消え去るのか、いつまでも悩ましい瘢痕として残るのか、それとも愛に変わっていくのか、いまはまだわからない。

